いま僕が自宅で使っているラジオ。オーム電機のRAD-S311N。
AM/FMに加え、SW(短波放送)も聴けます。これをエネループで稼動させています。
さて、今回の震災で一番重要な情報のひとつは「緊急地震速報」です。
地震の初期微動(P波)を検知し、主要動(S波)が到達する前に警戒を促すこの速報は
テレビ・ラジオ全局に加え、一部の携帯電話やインターネットでも取得することができます。
ただこの緊急地震速報、地上デジタルテレビ放送―つまり「地デジTV」では
受信が遅れることをご存知でしょうか?こちらの引用をご覧下さい。
地デジの緊急地震速報、遅れ解消へ 在京各局が新システム運用開始
日本新聞協会 2010年8月23日配信より引用
地上デジタルテレビ放送の緊急地震速報がアナログ放送より遅れる問題を解消するため、
NHKと在京民放キー局は8月23日、地震発生地や予測震度などを地図で表示する前に、
「緊急地震速報」というスーパーとチャイム音を流すシステムの運用を開始した。
総務省が放送各局に対し、速報の迅速化を求めていた。
NHKによると、デジタル放送の緊急地震速報はアナログ放送より約1.6-3.3秒遅れる。
今回導入するスーパーは、難聴者向け字幕放送と同じ信号を使う。
従来より約1.0-2.5秒早くなる。ワンセグ放送には対応しない。
NHKは同日、東京タワーからの電波を受信できる地域と27の放送局で運用を始めた。
10月末までに全国での実施を目指す。
この記事で注意して頂きたい点が2つあります。
まず、「対策が施される前の地デジの緊急地震速報は、アナログより約1.6-3.3秒遅れる」点。
そして「改善後の地デジの緊急地震速報は、約1.0-2.5秒早くなる。ワンセグ放送には対応しない」点。
つまり対策が施された後でさえ、地デジの緊急地震速報はアナログTVより約0.6-0.8秒遅れる訳です。
しかも携帯電話などのワンセグ放送は、更に遅れる訳です。
ものすごく簡単にご説明すると、地デジTVでは番組を電波に乗せるに当たって
放送をあるデータフォーマットに処理(エンコード)して、端末(TV受像機)で
それを復号(デコード)します。
このエンコード-デコードの両方の処理の時間分、速報表示が遅れる訳なんですね。
もともと今年7月24日には、現行のアナログテレビ放送を完全に休止し
地デジ放送に一本化される予定だったのですが、東日本大震災の被災地である岩手・宮城・福島では
最大一年程度、地デジへの完全移行が延期されることになったそうです。
(参考:<地デジ>3県の移行延期を発表 岩手、宮城、福島 (毎日新聞))
ただ今回の震災で、地デジテレビの弱点である「速報の遅れ」は非常に気になるものでした。
これは被災3県の問題ではなく、今回の震災の影響を受けていない地域も含めた全国的な問題です。
既にこのブログで何回か書いていますが、僕はPCのブラウザ・Google Chromeに
緊急地震速報エクステンションというアプリケーションをインストールしています。
これと地デジTVを比較すると、体感的・経験的に9割以上Chromeの方が速く速報するのです。
しかもこちらは、震源地・予想震度・予想マグニチュードを表示します。
この3週間ほどは、Chromeで緊急地震速報を確認→TVで確認という流れが当たり前になっています。
(勿論これは、インターネットへの接続環境により大きく変わってくるものであることにご注意下さい。
僕の会社及び自宅は、共に光ファイバー接続で、ベストエフォートで100Mb/sの速度です。)
体感速度では、短くて0.5秒、長いと2秒以上の差があります。
「なんだ。たった2秒か」と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかしこの1・2秒の時間が、一刻を争う事態では極めて重いものとなります。
実際、僕が自宅でこのような状況に遭遇すると、例えばリビングに寝そべっていたとしても
1秒程度で立ち上がり、次の1秒で携帯電話と財布を探すことが出来ます。
その上で、TVの緊急地震速報が鳴った時にはセイフティルームである寝室に向かい始めているのです。
例えば震源から自分の居る場所までの距離が50kmあったと仮定して
P波(秒速約7km)とS波(同約4km)の伝播速度の差を考慮すると、
震源地でP波発生の10秒後に緊急地震速報が鳴った場合
1.P波が自分の位置に到達するまで…7.14秒後
2.緊急地震速報を受信…10秒後(P波到達2.86秒後)
3.主要動(S波)が自分の位置に到達するまで…16.67秒後(緊急地震速報受信後6.67秒)
…という計算になります。(非常に大雑把です。間違っていたらご指摘下さい。)
※東日本大震災の際は、P波発生から一般向け緊急地震速報まで8.6秒かかっています※
この僅か6.67秒しかない対応時間が、地デジによって1秒遅れたら猶予は5.67秒。
この差は大変大きいと、僕はこの数週間の実体験で痛感しています。
まして、震源との距離が極めて小さい直下型地震の場合はどうなるでしょう?
とは言え、有限の資源である電波をより効率的に使うために地デジは整備されたもの。
エコポイント制度などを使ってまで、国策でアナログからデジタルへの転換を進めてきたのですから
今更「デジ・アナ並存」というのは本末転倒な話しですし、放送局はその負担に耐えられないでしょう。
そうすると、「アナログ波で高速に・広汎に緊急地震速報を伝えることが出来るメディア」は
ほぼ現行のラジオ放送だけになるということになります。
携帯電話やインターネットも、通信回線を利用しているため、放送のように
無限の接続(受信)は出来ないんですね。通信トラフィックが急に増大すると、繋がりにくくなるのは
みなさんもよくご存知だと思います。「輻輳(ふくそう)」という現象です。
放送は一方的に電波を送っているだけなので、この輻輳は発生しません。
僕は地震学者ではありませんので何ら確たることは言えませんが
太平洋プレートでの大規模な地殻変動は、隣接する北米・ユーラシア・フィリピン海の各プレートに
通常よりも大きな応力を懸けているのではないでしょうか。
その意味で、今後東海・東南海・南海地震の発生に充分注意が必要ではないでしょうか。
その時、皆さんの生命や財産を守るのは、アナログラジオ1台かもしれないのです。
アナログラジオの受信機は、一台1,000円も出せばそれなりのものが買えます。
AMであれば、スピーカーで鳴らしても、単3乾電池一本でそれなりの時間聴けるはずです。
皆さん、どうか今のうちにラジオを一台用意して、日常的に聴くようにして下さい。
TVと違い、仕事をしながらでも聴くことが出来ます。BGM程度に無意識に鳴らしておくだけでも
緊急地震速報のあのチャイムが鳴れば、瞬時に気づくことが出来るはずです。
ラジオマンとして、皆さんの安全のために、強く強く提言差し上げます。
そして可能であれば、全国のラジオ局の皆さんがこの状況にいち早く気付いて
全国的にラジオの普及と、日常聴取を強く・大きく呼びかけて欲しいと願います。
私たちラジオ業界人ができることは、災害発生後だけでは無いのです。
どうか宜しくお願い致します。